2006年12月02日

横山秀夫 「顔−FACE−」

主人公は婦人警官(もうこう呼ばないんだっけ?)平野瑞穂。
かつては鑑識課で、犯人の似顔絵を描く「似顔絵警察官」だった彼女だが、
ある失敗を犯し、警察の体裁という名の下にその職をはずされる。
そんな彼女が色々な事件にかかわり、さまざまな人たちに触れながら、
警察官として人間として一歩一歩成長していく・・・というストーリー。



内容は、

プロローグ
魔女狩り
決別の春
疑惑のデッサン
共犯者
心の銃口
エピローグ

すべて彼女が主人公で、一事件ごとに完結する構成になっている。



警察の内部についてかなり踏み込んで書いているので、
全体的には重くて堅い印象があるんだけど、
横山さんの話には必ずドラマチックで人間くさい伏線が隠されている。
だから好きなのです、横山さん♪


絶望的な状況になっても、救いようのない事態が発生しても、
横山さんは最後に何かしらの形で救ってくれる。
だからどんなラストでも、後味が良いの。

今回の作品で警察の内部を描いている根底にあるのは、男社会。
「だから女なんていらねえんだ」と堂々と言ってしまう周囲に囲まれて
「女」である瑞穂は仕事をしている。

いつも危険と責任感に直面している世界。
時には権力や腕力も必要なときも出てくるだろう。
そんな世界で女性はどんな役割を果たしていくのだろうか。
考えたことがなかっただけに、
瑞穂の奮闘ぶりにあれこれ思いをめぐらせてしまった。

瑞穂さんは大変清々しい女性です。
気持ちがまっすぐなだけに、人一倍傷つくのかな。
作者の横山さんは女性よりは男性の心理を書くのが上手だと思うけど、
今回の瑞穂さんはなかなかがんばっていらっしゃいます^−^


私の一番のお気に入りは、「疑惑のデッサン」。
瑞穂の後任として似顔絵警察官に入った後輩が、
またもや瑞穂と同じ屈辱を味わせられようとしている。
それを止めようとする瑞穂のひたむきさが、一番光ってると思う。

ミステリーと人間ドラマが両方味わえます♪



著者名:横山秀夫(著)
出版社:徳間書店
出版年:2002.10
ISBN :4198615861

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2006年11月10日

横山秀夫 「真相」

「事件が終わった後に残るもの」にスポットを当てている短編集。
普通事件というと、犯人と被害者当人に目が行きがちだけど、
この作品では周囲の人たちに視点を変え、描いている。


内容は、

真相・・・・息子を殺され、10年後に犯人逮捕の知らせを聞いた家族。
      でも逮捕とともに事件の真相も明らかにされる。
18番ホール・・・・周囲に請われ、安定した職を捨てて村長選に臨んだ男。
         「18番ホール」への執着と、
         背水の陣である精神緊迫状態が自体を思わぬ方向へ。
不眠・・・・リストラされて自信を失った男。
      不眠に悩まされ夜中町を徘徊していた男が見た状況が、
      事件を動かしていく。
花輪の海・・・・大学時代の苦い過去を忘れようとしている男が、
        1本の電話をきっかけに記憶を呼び覚まされる。
他人の家・・・・刑期を終えて社会に戻った男とその妻の現実生活を描いている。


ざっと書くとこんな感じかな。
内容がミステリアスだと、
どうもあらすじまでミステリーチックな語り口調になってしまう^^;;


で、感想。
おもしろい!!!

内容を見てわかると思うけど、横山さんの書く作品の主人公はいつも男性だ。
男の葛藤、プライド、見栄、劣等感、弱さ、脆さ。
すべてが凝縮された話ばかりだ。


近年女性の心理を見事に緻密に描く作家さんはとても多く見られるけど、
横山秀夫さんは、男性の心理を緻密に書き上げる。
女性の私からは想像できないような細部にまでペンを走らせている。
ストーリーのおもしろさに加え、登場人物にも感情が入り込んでしまう。

そしてこの人の書く文章には、なぜかいつも涙が出そうになるのよね〜
涙の理由は、
男性の悲哀、追い込まれた精神状態、それでも現実に向き合おうとする痛々しさ。
それらがリアルに心に響く感じがする。
そしていつもラストに状況が動くので、
ラストに向けて緊迫感をもって読むことができる。

横山さんの本は男性はもちろん、女性にもとにかくオススメです。


真相

著者名:横山秀夫(著)
出版社:双葉社
出版年:2006.10
ISBN :4575511005

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2006年10月14日

吉田修一 「7月24日通り」

タイトルと表紙に一目惚れして図書館から借りてきた、
吉田修一さんの「7月24日通り」。
タイトルはポルトガル・リスボンにある通りの名前だそうだ。
どれだけおしゃれな話なのだろうと思ったら、日本の話だった^−^;;


あるOLの視点からかかれている。
ハンサムな弟とその彼女、妻を亡くした自分の父、
高校時代の憧れだった先輩その彼女、
そして今はその彼女と結婚している会社の同僚。
ふと知り合った普通の男。
日常のありふれた光景が、自分の町をリスボンに重ね合わせた幻想とともに流れていく。


淡々とかかれているようで、すべてがつながっている。
なぜ自分の町をリスボンに重ね合わせるようになったのかその理由と、
自分と周囲との関係が絶妙!

ありふれた光景なのに、吉田マジックにかかると少しスタイリッシュな光景に変身する。
さらさらっとした文体も大好き。

ラストは私の予想とは違っていた。
ということは、私は「まちがえたくない」人間なのだろう。


間違ってしまう人生も間違えない人生も、なかなか粋なものですがね^−^

今度映画化されるみたいので、見てみたいな。


7月24日通り

著者名:吉田修一(著)
出版社:新潮社
出版年:2004.12
ISBN :4104628034

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2006年10月10日

山本文緒 「パイナップルの彼方」

主人公は23歳の平凡なOL、鈴木深文(みふみ)。
短大時代からの付き合いである結婚に夢見て玉の輿婚を果たしたなつ美と、
現実から逃げたくて仕事も男も長続きしない月子という個性的な友人はいるものの、
本人はいたって平凡なOL。
普通の彼氏、普通の同僚を持つちょっとドライなOLの普通の生活に、
我の強い女性社員が入ってきた事から波風が立ち始める。


これほどまでに日常を余すとこなく描けるとは!とびっくり ̄□ ̄
みーんな登場人物は、自分の周りにいるような人。
色々なタイプの人生が飛び交い、主人公が初めて自分の生き方を変更させることになる。


幸せに正解なんてない。
人生に正解なんてない。
何が幸せで何が不幸せか、
自分の今に満足なのか不満なのか、
決めるのはいつも自分だけ。

そんなことをふと気づかせてくれる小説です。


結局は「自分はこういう人間だ」「あの人はこういうものの見方をする」と
自分で自分を縛らず、他人を自分だけのメガネで見ないことが大事なのかな、と思う。
難しいけど、自分の殻に閉じこもりきりではそこまでで終わる。
自分の世界観の中で幸せと感じられるかもしれないけど。
だからと言って、他人の世界観に惑わされるのも嫌だ。

これからも試行錯誤を繰り返しながら
いっぱい他人を巻き込んで、いっぱい他人に巻き込まれて、
自分では気づかなかった感情や物欲に気づいて、
嫌なときには少し逃避して、嬉しいときには浮かれて、
日々変化しながらこれからも生きていけたらおもしろいなあ ̄ー ̄

そんなことを感じた一冊でした。




パイナップルの彼方

著者名:山本文緒(著)
出版社:角川書店
出版年:1995.12
ISBN :4041970016

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2006年10月07日

横山秀夫 「半落ち」

1人の警察官が妻を殺して2日間空白の時を過ごし、警察に出頭。
警察官が殺人を犯すという非常事態に陥った警察機関のホンネとタテマエ、
そして空白の時間をそれぞれの立場、思いから追求していく、
刑事、検事、弁護士、裁判官など。
それらが絡み合っていて被疑者の思いに近づく。


構成も、登場人物それぞれをたくみに描写した6章からなっている。
それぞれの立場から違う角度で被疑者を見つめる、という構成は、
私は読んだ経験がなかったので新鮮だった。


最初は警察の業界用語や組織の複雑さが出てくるので、
お堅い本なのかと思ったけど、
少しずつ登場人物に慣れ始めるころには、夢中になって読んでいた。


読み終わると、感動が胸に染み渡る感覚になった。
止むに止まれず妻を殺した警察官が
どんな思いで空白の2日間を過ごし、
どんな思いで出頭して取調べを受け、
どんな思いで法の裁きを待っているのかが、少しずつ紐解かれる。
それぞれの人物が仕事で割り切らなければならない部分と本音の部分で葛藤するのも、
とても共感できた。


そして、空白の2日間の謎、被疑者の思いがわかったとき、
何ともいえぬ余韻がじわわーっときた。


映画もまた秀逸。
でも行間にこめられたモノに思いをはせるには、やはり本が一番だと思う。

横山秀夫さんは緻密な場面描写がすばらしい!
胸が熱くなる作品です^−^



半落ち

著者名:横山秀夫(著)
出版社:講談社
出版年:2005.09
ISBN :4062751941

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2006年10月05日

吉田修一 「最後の息子」

表題作「最後の息子」、「破片」、「Water」の3篇からなる作品集。


「最後の息子」・・・オカマの閻魔ちゃんと暮らす「ぼく」の日常を、
          普段回していたビデオカメラを通じて描いた作品。
          愛されることを願いながら奇妙な生活を続けるぼくが
          淡々と描かれている。

「破片」・・・父、兄、弟の男家族を描いた作品。それぞれの抱える問題を描いている。

「Water」・・・高校水泳部でがんばっている「ぼく」の視点から見た
       家族、友情を描いた作品。


で感想は、

いい(・▽・)


最初の2篇は、特にさわやかな状況を書いているわけではない。
虚無感すら感じるんだけど、
なんというか、ちょうどいいほどほどの虚無感なのです。
読み終わった後にどよーんとする感じは全くなく、暗さもなく、
無気力な主人公に愛しさすら感じちゃう。


「最後の息子」の中には愛されることについてぼくが語っている場面があり、

愛されようとするのは、救いようのない悪気だと思う

という一節が心に残った。


確かに誰かに愛されるために、誰かの気をひくために、
後から考えると浅はか過ぎて顔を覆いたくなるようなことを
平気でしてしまうことがある。

泣いてみたり。どうしようもないわがままを言ってみたり。
突っぱねてみたり。しがみついてみたり。


最後の1篇「Water」は、青春真っ只中の少年の目を通して描かれた世界が、爽快感いっぱい。
彼の家族には悲しい過去があったが、
少年のまっすぐな目で真剣にその意味を問おうとしている。
そして彼の周囲の友達、後輩。
清涼感ただよう作品で、これが私の1番のお気に入り♪

作品の後半で、少年は死んだ兄の日記を見つける。


たぶんこれからのボクの人生は、何を持っていくかで決まるのだと思う。
どんな思い出をもっていくかで、ボクの人生は決まるのだ。


若いときに出会いたい一節だなあ、と思う。



最後の息子

著者名:吉田修一(著)
出版社:文藝春秋
出版年:1999.07
ISBN :4163185704

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2006年09月17日

山田悠介 「Aコース」

1時間あれば読めちゃう、お手軽な本です。


ひまな高校生5人組が、ゲームセンターの新アトラクション「バーチャワールド」に挑む。
意識だけが炎に包まれた病院の世界に飛び、ここから脱出するというゲーム。
意識だけとはいっても、リアルに動くこともできるし、熱さも痛みも感じる。
敵の手を逃れながら、5人は脱出できるのか・・・というストーリー。





文庫の帯には「炎の病院でバトルロワイヤル!」と書いてあったが、まさしくそんな感じ。

感想を言うと・・・・うーん・・・・という感じ^^;;
ドキドキハラハラする状況設定ではあるんだけど、ラストが消化不良なのは私だけ?
もうちょっと、「なぜ病院か?」のメッセージ性を入れたらもっとおもしろいんだけどなあ。
本性をむき出しにした5人を最後まで丁寧に書いてほしかったなあ。

Aコース

著者名:山田悠介(著)
出版社:幻冬舎
出版年:2004.10
ISBN :4344405803

posted by izura at 19:46| Comment(4) | TrackBack(2) | 作者−や行

2006年09月16日

山本文緒 「ブラックティー」

短編集です^−^

各短編は、日常の些細な罪を軸に書かれている。
物を盗む女、元彼を裏切ってエリートと結婚した女、
彼氏の清潔じゃない部分が許せない女。
薄いのもあるけど、「次はどんな女性が出てくるんだろう?」とページをめくっている間に
あっという間に読み終えてしまった。


私の一番のお気に入りは、芸能人に恋して追っかけを始める母と、それを見つめる娘の話。
最後はほろりと来てしまった。
ちなみに母は夫を捨てて芸能人にほれ込んでしまった理由は
「握手で手を握られたから。」
人って、温かい肌の感触だけで心があったかくなるんだよね〜。

韓流ブームはまだまだ続きそうだけど、
はまっている奥様の中にはこういう心境の人もいるのかな・・・と考えると、
また違った見方でブームを捉えられそう。

ブラック・ティー

著者名:山本文緒(著)
出版社:角川書店
出版年:1997.12
ISBN :4041970040

posted by izura at 00:04| Comment(0) | TrackBack(0) | 作者−や行