2007年02月04日

宮部みゆき 「火車」

怪我で休職中の警察官・本間が、
失踪した婚約者を探してほしいと親戚の若者から頼まれたところから
ストーリーが始まる。
彼女の行く手を追ううちにさまざまな事実や社会問題が浮き彫りになっていき・・・
というお話。


いやあ、一気に読みました。
何度予想を裏切られた展開があったことか(笑)
本を読みながら「えっ」と思わず声が出てしまうほど。


そして、本筋である「失踪者を追う」という以外に通っている太い筋は、
「カード破産」。


一昔前に流行語のようになった「カード破産」。
クレジットカードが広く普及し、
手元にお金がなくてもすぐに買い物ができる手軽さがウケて
次から次へと買い物をする人が増えた。
借金を返済するためにまた借金し、というふうに
だるま式に借金がかさんでいく。
でも手軽にお金を借りられるから、歯止めがきかない。
結果的に借金は自分が返せる額をとっくに超え、
自己破産という道を辿る人もいる。

そんな「お手軽社会」カード社会がこの作品の背景にある。


カード破産って聞くと、どうも自分に縁のないもの、
「お金にだらしない人がなるんじゃないの?」と思ってしまっていたが、
本の中でカード破産した女性は言う。


「わたし、ただ幸せになりたかっただけなの。」



失踪した女性の心情、もう一人行方不明になっている女性の心情が
とても丁寧に細やかに書かれているので、
500ページも飽きずに中だるみもせずに、ある程度の緊張感を持って読める。
ただ人並みの幸せをつかもうと必死にもがく2人の女性がとても痛々しい。
またその2人の女性の行方を追う警察官の気持ちも、
好奇心からだんだん同情に変わっていく。
その流れが実に見事です。



幸せといえば、
本の中である女性が幸せについて語る場面がある。


「蛇が脱皮するの、どうしてだかわかります?
一所懸命、何度も何度も脱皮しているうちに、
いつかは足が生えてくるからなんですってさ。
今度こそ、今度こそ、ってね。
べつにいいんじゃないのね、足なんか生えてこなくても。
立派に蛇なんだからさ。
だけど蛇は思ってるの。足があるほうがいい。
足があるほうが幸せなんだって。
この世の中には、足は欲しいけど、脱皮に疲れてしまったり、怠け者だったり、
脱皮の仕方を知らない蛇は、いっぱいいるわけよ。
そういう蛇に、足があるように映る鏡を売りつける賢い蛇もいるというわけ。
そして、借金してもその鏡がほしいと思う蛇もいるんですよ。」



これ読んだとき、うーんと唸ってしまいました。
確かに、自分を自分以上に見せるモノが今の世の中には溢れ返ってるものね。


そしてラストシーン。
この後の展開は、読者の想像にバトンタッチされる。
ドキドキのラストです。


宮部さんは江戸時代モノも書いていて、そっち方面は未読ですが、
何冊か読んだ中では、この「火車」が一番好き。
オススメです^−^

火車

著者名:宮部みゆき(著)
出版社:新潮社
出版年:1998.01
ISBN :9784101369181

posted by izura at 00:31| Comment(0) | TrackBack(2) | 作者−ま行

2007年01月30日

水谷修 「こどもたちへ−夜回り先生からのメッセージ」

「夜回り先生」水谷修さんのメッセージ集。


水谷さんのことを扱う番組は、事前にわかれば必ず見るようにしている。
「まず実践、まず行動」という教育者としてのスタイルは、本当に尊敬する。


知っている人も多いと思うけど、
水谷修さんは昼は高校の教師として勤め、夜は街じゅうを歩き回り、
孤独を恐れてさまよう若者たち、
薬物依存に走る若者たちの話に耳を傾けつづけている人だ。
(最近高校は退職したそうです)
インターネットや電話でも悩みを聞き返事を返し、
全国津々浦々で講演会を開いて若者とその親に語りかけ、
睡眠時間3、4時間というハードスケジュールで日々人のために尽くしている人。



今、何か悩みを抱えている人にとってはバイブルとなり得る言葉が
この本にちりばめられている。
悩んで答えを出せないとき、
自己嫌悪に陥っているとき、
この本はポンと背中を押してくれる。


「過去の自分を許そう」
「明日に向けて一歩踏み出してごらん」
「人に優しさを配れば、必ず自分に返ってくるよ」


こういう言葉って、ただ言うだけじゃ何の説得力もないんだろうけど、
誰かの心の叫びのために自らの命まで削って奔走する水谷さんだからこそ
ものすごい大きな説得力が生まれてるんだと思う。


人間きっかけが大事ってよく言うけど、
少しでいいから助走をつけられれば曲がりなりにも前に進むものだ。
「どっちの方向に進むんだろう・・・」といくら頭で考えたって、
実際前に進めるわけじゃない。
でも一歩でも踏み出せば、必ず次の一歩も前へ出る。
そのきっかけを人からもらって後は自分で進んでごらん、
と水谷さんは本で語りかけている。


外部の働きかけがきっかけで、自分の力で立ち上がる。
これが大事なんだよね。


この本でもっともお気に入りの一節。

可能性を求めるのは無駄です。
可能性は、
ただ生きていく中で、結果として生まれるものです。
求めるものではありません。
今、明日のためにできることを、少しずつやりましょう。
少しずつ成長しましょう。
その積み重ねこそが、君に与えられた可能性です。



そしてこうも言う。


悩みは自分へのこだわりから生まれるもの。
自分のことだけを考えるのをやめて、
人に優しくしましょう。
生きる力とは、自分の優しさが他人の優しさになって
自分に跳ね返ってくるときに、
初めて湧いてくるものです。


こどもたちへ

著者名:水谷修(著)
出版社:サンクチュアリパブリッシング
出版年:2005.09
ISBN :9784861130069

posted by izura at 22:05| Comment(0) | TrackBack(1) | 作者−ま行

2006年09月17日

村上春樹 「風の歌を聴け」

登場人物に熱い人は誰一人出てこない。
みんなどこかドライで、どこか無気力で。
人を好きになるとか、誰かと寝るとか、友情とか、
そういうことも取るに足りないことのように思えてくる。

特に主人公はつかみどころがない。
でもつかみどころがないところが周囲の人々の心をつかみ、
みんな吸い寄せられるように彼との関係を作っているようだ。
こうして淡々と主人公29歳の夏は過ぎていく。


ところで、どの作品でもそうなのだが、村上春樹さんの発想力には脱帽する。

「離婚した女の人とこれまでに話したことある?」

「いいえ、でも神経痛の牛には会ったことがある」



「ねえ、女って一体何を食って生きてるんだと思う?」

「靴の底」


といった感じ。
彼の作品を読むときはこんな春樹ワールドにどっぷりつかってしまう。

この作品の舞台は1970年代。
70,80年代をよく知る人は、
私なんかよりずっと深くこの作品を感じることができるのかなーと
ちょっぴりうらやましくなってしまう。

うーん、こういう作品は感想を書きづらいなあ・・・(−−)
でもこういう世界はなかなか村上春樹以外では味わえないものだと思う。

風の歌を聴け

著者名:村上春樹(著)
出版社:講談社
出版年:1982.07
ISBN :4061317776

posted by izura at 19:51| Comment(2) | TrackBack(0) | 作者−ま行