主人公の浪人生薫は、現実でのやりきれなさや寂しさをチャットで埋めようと、
夜な夜な「KAHORU」というハンドルネームで女になりすまし、
ちやほやされて楽しんでいる。
しかし、ネット上のKAHORUに本気で惚れた男性が
実際に彼女に会いに行った先で殺害されてしまうのだ。
ミステリーなので、これ以上の展開については言えないけど、
ネット上での心理状態などが緻密にかかれている。
まだパソコン通信の時代に書かれた作品なので、
今はすんなり「こういう世界もあるある」と思って読めるけど、
当時は「げ!信じられない!」という感覚で
チャットの場面が読まれてたのかなーと思う。
浪人生という微妙な立場、親の期待、友達に先を越される感覚。
10代特有の、ちょっと自己中心的でちょっと他力本願で
ちょっと楽観的な雰囲気を、主人公薫は漂わせている。
若者の心の葛藤みたいなものも、この作品の読みどころかな。
ただ個人的には、
乃南さんの好きなところは物語が重厚で切れ味鋭い謎解きにあるので、
今回のはちょっと物足りなかったかなー^−^;;
ラストの場面、薫は警察官に諭される場面があって、
「もう少し現実に目を向けたらどうだ?」と言われ、
「現実なんか重苦しいだけじゃないか、疲れるだけじゃないか」と
言い返そうとした瞬間、違う気持ちがこみあげてきた薫。
時には煩わしく、邪魔でうるさいばかりに思えても、
彼らは皆、血の通った生身の人間だった。
その存在に、嘘はない。
普通の人は、現実の世界とネットの世界を住み分けられる。
もちろん違いははっきりつくし、常に身を置いているのは現実の世界だ。
でも、この作品の主人公のように、
逃げ込みたいとき、刺激がほしいとき、
評価されたいときはどうだろうか?
現実世界に逃げ込める場所がないなら、
ネットの世界に逃げ込んだって不思議はない。
自分の素性を知れることはないんだし。
また、住み分けられない人を狙っている悪質な人もいる。
両方の世界を住み分けられない人や、簡単にその垣根を越えてしまう人は、
ネットの怖さを認識しなきゃだめですね。
最近ネットや出会いサイトによる犯罪は増える一方。
現実の人間関係を遮断し、
自分を飾ってでも表現できるネットでの人間関係を望んでいる人は
増えてるのかな、やっぱり。
バランスって必要だよなーとつくづく思う最近なのでした^−^;;
ライン
著者名:乃南アサ(著)
出版社:講談社
出版年:1997.11
ISBN :4062636336

