2007年02月17日

藤沢周平 「蝉しぐれ」

ストーリーは、下級武士の息子である15歳の少年の目を通して、
父、母、友情、恋が描かれていく。
また周囲の出来事に巻き込まれながらも、
一人前の武士として、一人前の男として成長していく様子を綴った作品。


おもしろくてどんどん読み進められました^▽^
一気に時代小説に対するとっつきにくさが消えてしまった。


これは藤沢さんの筆力なんだろうけど、
数百年も前の時代のことなのに、現代の話のように読み進められる。
決して大げさでドラマチックな表現じゃないんだけど、
主人公・文四郎の気持ちがストレートに伝わってくる。


何も「今は〜」「昔は〜」なんて区別することはなかったんだ、と気づいた。
気持ちの面ではいつの世も一緒。
大切にしたいものや守りたい人がいて、
自分の予想をはるかに超えるような出来事に時々出遭って、
でもその中で、今自分にできることを探す。


ただ、昔は今よりも制約を受けることが多々あった。
家名を守るとか、身分やプライドを保つとか、
生きていくためにしなければならないことが今よりもたくさんあったと思う。
一人の少年が大人に成長する過程で、
自分の前に立ちはだかるものに対して葛藤し、
どんどん人間として大きくなっていく様は、
一言で言えば「すがすがしい!」のだ。

まさしく、清貧という言葉がぴったりの、読後感さわやかな作品。


蝉しぐれ

著者名:藤沢周平(著)
出版社:文藝春秋
出版年:1991.07
ISBN :9784167192259

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2007年02月07日

長嶋有 「猛スピードで母は」

この本には2作品収められており、
「サイドカーに犬」で第92回文学界新人賞、
「猛スピードで母は」で第126回芥川賞を受賞している。
たった400円で大変お得な本です^−^



「サイドカーに犬」

お母さんが出て行き、
その代わりに若い女・洋子さんが晩御飯を作るようになった夏休みの日常を
小学生の女の子の立場から描いたお話。



「猛スピードで母は」

母と2人の生活を小学生の男の子の立場から描いたお話。



両方に共通しているのは、
「お父さん」がほとんど描かれていないのと
子どもの視点から描かれていること。


そして「サイドカー・・・」に出てくる若い女性洋子さんと、
「猛スピード・・・」の母は
どちらも淡々としていて若々しくて強くて瑞々しい。
どちらの女性も、「子どもを庇護する大人」という感じはまるでなく、
なんていうか、とらえどころがない女性なのだ^−^;;
だからかな、最後までこの女性2人によってストーリーが引っ張られていく。


語り部である子どもも、どこか大人で、でもお母さんを愛していて、愛されたくて、
その気持ちの葛藤が淡々とした文体の中によく現れている。


語り口としてはあっさりしているので、
それこそ「猛スピード」で読破できるんだけど、
2回目はまた違った味わいが楽しめるんでしゃないかと思います^−^
ちなみに私はあっっっという間に読み終わってしまい、
芥川賞の味わいがわかりませんでした(−−)

また読んでみようっと。


それから
文体から察すれば作者の長嶋さんは女性だと思っていたのですが、男性なのね!
びっくりしました^−^



猛スピードで母は

著者名:長嶋有(著)
出版社:文芸春秋
出版年:2005.02
ISBN :9784167693015

posted by izura at 23:24| Comment(0) | TrackBack(1) | 作者−な行

2007年02月04日

宮部みゆき 「火車」

怪我で休職中の警察官・本間が、
失踪した婚約者を探してほしいと親戚の若者から頼まれたところから
ストーリーが始まる。
彼女の行く手を追ううちにさまざまな事実や社会問題が浮き彫りになっていき・・・
というお話。


いやあ、一気に読みました。
何度予想を裏切られた展開があったことか(笑)
本を読みながら「えっ」と思わず声が出てしまうほど。


そして、本筋である「失踪者を追う」という以外に通っている太い筋は、
「カード破産」。


一昔前に流行語のようになった「カード破産」。
クレジットカードが広く普及し、
手元にお金がなくてもすぐに買い物ができる手軽さがウケて
次から次へと買い物をする人が増えた。
借金を返済するためにまた借金し、というふうに
だるま式に借金がかさんでいく。
でも手軽にお金を借りられるから、歯止めがきかない。
結果的に借金は自分が返せる額をとっくに超え、
自己破産という道を辿る人もいる。

そんな「お手軽社会」カード社会がこの作品の背景にある。


カード破産って聞くと、どうも自分に縁のないもの、
「お金にだらしない人がなるんじゃないの?」と思ってしまっていたが、
本の中でカード破産した女性は言う。


「わたし、ただ幸せになりたかっただけなの。」



失踪した女性の心情、もう一人行方不明になっている女性の心情が
とても丁寧に細やかに書かれているので、
500ページも飽きずに中だるみもせずに、ある程度の緊張感を持って読める。
ただ人並みの幸せをつかもうと必死にもがく2人の女性がとても痛々しい。
またその2人の女性の行方を追う警察官の気持ちも、
好奇心からだんだん同情に変わっていく。
その流れが実に見事です。



幸せといえば、
本の中である女性が幸せについて語る場面がある。


「蛇が脱皮するの、どうしてだかわかります?
一所懸命、何度も何度も脱皮しているうちに、
いつかは足が生えてくるからなんですってさ。
今度こそ、今度こそ、ってね。
べつにいいんじゃないのね、足なんか生えてこなくても。
立派に蛇なんだからさ。
だけど蛇は思ってるの。足があるほうがいい。
足があるほうが幸せなんだって。
この世の中には、足は欲しいけど、脱皮に疲れてしまったり、怠け者だったり、
脱皮の仕方を知らない蛇は、いっぱいいるわけよ。
そういう蛇に、足があるように映る鏡を売りつける賢い蛇もいるというわけ。
そして、借金してもその鏡がほしいと思う蛇もいるんですよ。」



これ読んだとき、うーんと唸ってしまいました。
確かに、自分を自分以上に見せるモノが今の世の中には溢れ返ってるものね。


そしてラストシーン。
この後の展開は、読者の想像にバトンタッチされる。
ドキドキのラストです。


宮部さんは江戸時代モノも書いていて、そっち方面は未読ですが、
何冊か読んだ中では、この「火車」が一番好き。
オススメです^−^

火車

著者名:宮部みゆき(著)
出版社:新潮社
出版年:1998.01
ISBN :9784101369181

posted by izura at 00:31| Comment(0) | TrackBack(2) | 作者−ま行